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東京地方裁判所 昭和37年(モ)12459号 判決 1963年4月06日

判   決

東京都墨田区向島中ノ郷町百二十三番地

債権者

岡部鉄工株式会社

右代表取締役

岡部亨

右訴訟代理人弁護士

関口正吉

同都中央区日本橋大伝馬町一丁目一番地

債務者

三光機材株式会社

右代表者代表取締役

小浜純孝

同都足立区千住末広町十八番地

債務者

末広鋲螺工業株式会社

右代表者代表取締役

大割豊太郎

右両名訴訟代理人弁護士

是恒達見

右当事者間の昭和三七年(モ)第一二、四五九号実用新案権仮処分異議事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、当裁判所が、債権者債務者間の昭和三六年(ヨ)第一、三一九号実用新案権仮処分申請事件につき、同年六月十七日した仮処分決定は、取り消す。

二、債権者の仮処分申請は、却下する。

三、訴訟費用は、債権者の負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

債権者訴訟代理人は、「主文第一項掲記の仮処分決定は、認可する。」との判決を求め、債務者ら訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および第一項につき仮執行の宣言を求めた。

第二  当事者の主張

債権者訴訟代理人は、申請の理由等として、次のとおり述べた。

(債権者の実用新案権)

一、債権者は、次の実用新案権の権利者である。

名  称 コンクリート仮枠締付金具

出  願 昭和二十七年四月二十二日

公  告 昭和二十八年五月二十六日

登  録 同年九月一日

登録番号 第四〇五、四三六号

(登録請求の範囲)

二 本件登録実用新案の登録請求の範囲は、願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載によれば、「図面に示すように、仮枠保持杆1の先端中心に縦孔2を設け、その口部に雌ねじ3を形成し、更に、鍔5を設くると共に、他端に雄ねじ6を形成して、これにナット7を螺合し、前記雌ねじ3には、両端に雄ねじ9、9を形成した緊締杆8を螺合するようにしたコンクリート仮枠締付金具の構造」である。

(本件登録実用新案の要部等)

三 本件登録実用新案の要部およびその目的とする作用効果は、次のとおりである。

(一)  本件登録実用新案の要部は、

(1) 仮枠保持杆の先端中心に縦孔を設けたこと。

(2) 縦孔の口部に雌ねじを形成したこと。

(3) その雌ねじには、緊締杆の両端の雄ねじを螺合するようにしたこと。

(4) 仮枠保持杆の先端部に鍔を設けたこと。

(5) 仮枠保持杆の他端に雄ねじを形成してナットを螺合したこと。

にある。

(二)  しかして、本件登録実用新案の目的とする作用効果は、

(1) 堰板、縦ばたおよび横ばたを強固に緊締し、コンクリート仮枠を一体に締め付けること。

(2) 両側堰板の間隔を正確に保持すること。

(3) 鍔によつてコンクリートの流出を防ぐこと。

にある。

(三)  なお、本件登録実用新案の明細書の実用新案の性質作用及び効果の要領の欄に、鍔を堰板の外側からあてて使用するように記載されているのは、前記本件登録実用新案の要部に示された構造自体からみて明白な誤記である。また、このことは、右明細書添附の図面によっても、鍔は堰板の内側からあてるように、内側の部分の基部に曲面(アール)がとつてあることからも明らかである。

もつとも、鍔を右明細書記載のように堰板の外側にあてて使用したとしても、鍔の使用方法は、本件登録実用新案の要件をなすものではなく、締付金具としての前記構造および作用効果を異にするものではない。

(債務者らの実施品)

四 債務者らの製品は、別紙物件目録記載のとおりである。

(債務者らの製品の特徴)

五 債務者らの製品の特徴は、次のとおりである。

(一)  債務者らの製品は、

(1) 本体ボルト1の一端中心に縦孔を設けたこと。

(2) 縦孔の口部に雌ねじ7を形成したこと。

(3) その雌ねじ7は、セパレーター5の両端の雄ねじ6を螺合するようにしたこと。

(4) 本体ボルト1の内端部の外側に短小の雄ねじ3を刻設し、これに、本体ボルト1と別に作つた堰板阻止用のリングゲージ4を着脱自在に螺着したこと。

(5) 本体ボルト1の他端に雄ねじ9を形成して、これにナットを螺合したこと。

を、その特徴とする。

(二)  しかして、債務者らの製品は、本体ボルト1の雄ねじ3にリングゲージ4を螺合して所定の位置に固定し、右リングゲージが堰板の内側にあたるように使用することにより、本体登録実用新案によるものと全く同じ作用効果をあげうるものである。

(本件登録実用新案と債務者らの製品との対比)

六 本件登録実用新案(以下、甲という。)と債務者らの製品(以下、乙という。)とを対比すると、次のとおりである。

(一)  共通点

乙の本体ボルトは、甲の仮枠保持杆に、乙のセパレーターは、甲の緊締杆にそれぞれ該当するところ、両者は、

(1) 本体ボルト(仮枠保持杆)の内端部中心に雌ねじを形成したこと。

(2) 右雌ねじには、セパレーター(緊締杆)の両端雄ねじ部を蟄合できるようにしたこと。

(3) 本体ボルト(仮枠保持杆)の外端部に雄ねじを設け、これにナットを螺合したこと。

(4) 本体ボルト(仮枠保持杆)の内端部に鍔を設けたこと。

(債務者らの製品は、使用する状態では、リングゲージは雄ねじに螺着されているのであるから、この状態で比較すべきである。)

において同一であり、また乙は、甲の有する前記作用効果のすべてを有しており、この点においても、両者は同一である。

(二)  相違点

甲は、鍔が仮枠保持杆と一体に形成されているが、乙は、本体ボルトに雄ねじを刻設し、これによりリングゲージを着脱自在に螺嵌する構造になつているが、乙においても、また、使用時には、リングゲージを本体ボルトに螺着固定するものであり、甲の鍔と全く同じ作用効果を有するのであるから、この点については、乙は、甲の設計変更にすぎず、両者は、同一の考案に基く類似の構造である。

なお、前記明細書の記載によれば、甲における鍔は、堰板の外側に当てて使用するように記載されているが、鍔の使用方法は、甲の要部ではなく、その構造および作用効果を異にするものでないことは、前記のとおりである。

(三)  結 論

以上のとおり、乙は、甲の要部を構成する要件のすべてを備えており、甲と同一の作用効果を有するものであるから、甲の技術的範囲に属する。

(被保全権利および仮処分の必要性)

七 債務者三光機材株式会社は、乙を製造、販売または拡布しており、債務者末広鋲螺工業株式会社は、乙を製造しているところ、乙は前記のとおり、甲の技術的範囲に属し、したがつて、債務者らの右各行為は、債権者の有する甲の権利の侵害となるものであるから、債権者は、債務者らに対し、実用新案権侵害排除等の訴を提起すべく準備中であるが、このまま放置するにおいては、債権者は、回復することのできない多大の損害を蒙るに至るので、東京地方裁判所に仮の地位を定める仮処分命令を申請し、(昭和三六年(ヨ)第二、三一九号事件)、同年六月十七日、主文第一項掲記の仮処分決定、すなわち、「債務者三光機材株式会社は、別紙物件目録記載のコンクリート仮枠締付金具の製作、販売、拡布をしてはならない。債務者末広鋲螺工業株式会社は、前項目録及び図面記載のコンクリート仮枠締付金具の製作をしてはならない。債務者等の前記記載のコンクリート仮枠締付金具の製品及び半製品に対する占有を解いて、債権者の委任する東京地方裁判所執行吏に保管を命ずる。」旨の決定を得たが、右決定は相当であつて、いまなお維持する必要があるから、その認可を求める。

(事情変更の主張に対する答弁)

八 債権者が債務者両名を被告として、債務者ら主張の本案訴訟を東京地方裁判所に提起したこと、同裁判所は、債務者ら主張のような債権者敗訴の本案判決をしたこと、および、右訴訟事件が現在東京高等裁判所に係属中であることは認めるが、その余は争う。債務者ら訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

(答弁)

一  申請理由第一、第二項の事実は認める。

二  同第三項の事実について。

(一) 同項の(一)については、甲が同項(一)の(1)から(5)の各要件を具えていることは認めるが、(4)は、仮枠保持杆の先端に堰板の外側から圧接する鍔を設けたものであり、(2)から(7)は、特許昭和四年公告第三、五四二号公報および実用新案大正十一年公告第六一七号公報により公知である。

(二) 同項の(二)の点については、甲は、その明細書に記載されているとおり、鍔を堰板の外側にあてて使用するものであり、したがつて、それは、同項の(二)の(1)(2)の作用効果を有するものではなく、(3)の作用効果を有するのみである。

(三) 同項の(三)は否認する。

三  同第四項の事実は、認める。

四  同第五項の事実について。

(一) 乙の特徴は、

(1) 本件ボルトの内端部中心に雌ねじを設け、両端に雄ねじを形成したセパレータを右雌ねじに係合するようにしたこと。

(2) 本体ボルトの内端部外端に短小の雄ねじを刻設し、これに堰板阻止用のリングゲージを着脱自在に螺嵌したこと。

(3) 本体ボルトの外端部に雄ねじを設け、これにナツトを螺合したこと。

であり、

(二) 同項の(二)の事実については、乙は、債権者主張の作用効果をあげうることは認めるが、そのほか、乙には、堰板の間隔を調整すること、リングゲージなしで使用すること、および、外側からの差入れができることの作用効果がある。

五  同第六項の事実について。

(一) 同項の(一)のうち、冒頭の事実および同(1)から(3)の事実は認めるが、その余は否認する。乙におけるリングゲージは着脱自在であり、鍔を設けたことにならないし、また、作用効果についてみれば、甲は、申請の理由三の(二)の(3)の流出防止の作用効果を有するにすぎないが、乙は、同三の(二)の(1)の緊締および同(2)の間隔保持ならびに前項(二)記載の甲の有していない作用効果を有している。

(二) 同項の(二)のうち、甲と乙とが債権者主張のとおりの相違点を有することは認めるが、その余は争う。乙は、リングゲージを着脱自在にした構造等により、甲の有していない答弁第四項の(二)記載の作用効果を有しているので、甲の単なる設計変更とみるべきものではない。

(三) 同項の(三)の主張は争う。前記のとおり、申請の理由第三項の(一)の(2)から(5)は公知であるから、それ以外の点に重点をおいて比較すべきところ、乙は、縦孔を備えず、かつ、作用効果も異り、甲の技術的範囲に属さない。

六  同第七項の事実のうち、債務者らの製造販売または拡布の事実は認めるが、その余は争う。

なお、債権者は、現在甲の実施をしていないから、本件実用新案権者として、被告らに対し、その実施の差止めを求めることはできない。

(事情変更の主張)

七 債権者は、債務者両名を被告として東京地方裁判所に対し、債務者らの製造、販売または拡布する乙が本件実用新案権を侵害するものとして、その製造譲渡等の差止めを求める本案訴訟を提起したが、同裁判所は、昭和三十七年八月二十九日、乙は、本件実用新案権の権利範囲に属さないとの理由により、債権者の請求を棄却した。もつとも、右訴訟は、債権者の控訴申立により現在東京高等裁判所に係属中であるが、右判決理由によれば、乙は本件登録実用新案の要部を構成する要件を欠くものとして請求が棄却されたもので、右判決は、正当であり、上級審において取り消されるおそれはないから、本件仮処分決定は、事情の変更があつたものとして取り消されるべきである。

第三 疎明関係≪省略≫

理由

(争いのない事実)

一  債権者が、登録実用新案第四〇五、四三六号の権利者であること、本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載が、債権者主張のとおりであること、債務者らの製品(乙)が、別紙物件目録記載のとおりであること、および債務者三光機材株式会社が乙を製造、販売または拡布し、債務者末広鋲螺工業株式会社が乙を製造していることは、当事者間に争いがない。

(本件登録実用新案の要部)

二 当事者間に争いのない前記登録請求の範囲の記載に、いずれもその成立に争いのない甲第一号証、および乙第九号証から第十一号証をあわせ考えれば、本件登録実用新案(甲)の要部は、

(一)  仮枠保持杆の先端中心に縦孔を設け、両端に雄ねじを形成した緊締杆を、前記縦孔の口部に形成した雌ねじに螺合するようにしたこと。

(二)  仮枠保持杆の先端に堰板の外側から圧接する鍔を設けたこと。

(三)  仮枠保持杆の他端に雄ねじを形成してこれにナツトを螺合したこと。

の結合にあるものと一応認められ、これに反する甲第三号証、同第十三号証、同第十七号証および同第二十一号証の各見解は、前掲各証拠と比照して、当裁判所のにわかに採用しがたいところであり、他に右一応の認定を左右するに足る資料はない。

すなわち、前掲各証拠によれば、コンクリート型枠の緊結金具は、一定間隔に並列された堰板とその外側に添わせる縦ばたおよび横ばたからなる型枠部材を保持するものであるが、仕上りのコンクリートの厚さを所要の寸法とするため、堰板が内方に寄らないように保持するとともに、外方にふくらまないように保持する必要があるため、甲の出願以前から、緊結金具としては、

(イ)  堰板が内方に寄らないように保持する鋼材またはブロツクで作られたセパレーターを堰板間に置き、堰板がふくらむことのないように保持する鉄線、ボルトなどで作られたセパレーターと別に使用される、すなわち、セパレーターの作用をもたない締付金具(以下(イ)の形式という。)

(ロ)  前記セパレーターと締付金具が一体または結合されているセパレーター兼用締付金具(以下、(ロ)の形式という。)

の二種類があつたことが一応認められるところ、前掲甲第一号証(甲の公報)の実用新案の性質、作用および効果の要領欄中には、

「以上のように構成した本考案の締付金具はその使用に当り第4図及び第5図に示すように両側の堰板Aに設けた孔Bに仮枠保持杆1を夫々挿嵌して鍔5を堰板Aの外側に圧接しその先端の穿孔2に設けた雌ねじ3に緊締杆3の両端雄ねじ部9を夫々螺合し更に前記鍔5の外側に柱C、及び横桟D、Dを井状に順次組立てその外側に座金10を当ててナツト7によつて緊締するものである。斯くして堰板A間にコンクリートを充填して凝固した後ナツト7を外し順次横桟D、D柱C、Cを取り除き次いで仮枠保持杆1を取り外して最後に堰板Aを取り除いて施工を終るのである。以上のように本考案の締付金具は従来のこの種のものに比較して構造簡単にして操作も容易であり然かも仮枠保持杆1の装着に当つて鍔5によつて堰板Aの孔Bを完全に包被するためにコンクリート施工に際して孔Bより流出するのを妨止する役をなす。」

と記載されているのみで、鍔を内方にあてること、および、それによる間隔保持の点については、何ら記載されていない。したがつて、これによれば、甲の考案は、前説示のとおり、その鍔を堰板の外側からあてることによるコンクリートの流出防止等をその主たる目的としているものと判断せざるをえない。このことは、前記乙第九号証および同第十一号証によつて認めうべき、「甲の出願以前に、コンクリート型枠締付金具において、締付杆に堰板の間隔を保持するための堰板の内側に圧接する鍔を設け、締付杆の中央部を硬化したコンクリート中に残して両端部を取り外すようにしたもの、および、型枠緊締金具において、締付ボルトの両端部分とコンクリート中に埋設する部分をねじで結合し、コンクリートの硬化後に締付ボルトの両端部を取り外すようにしたものが、いずれも公知であつたこと」、したがつて、甲に対する登録が、右公知のものを単に組み合わせたにすぎないとも考えうべき、鍔を堰板の内側にあてたものに対して与えられたものとみるのはむしろ不自然であると認められることによつても裏付けられるものというべきである。この点に関し、債権者は、甲第一号証中前掲記の部分は、甲の要部に示された構造自体からみて明白な誤記であり、図面によつても、鍔は堰板の内側からあてるように、内側の部分の基部に曲面(アール)がとつてあることからも明らかである旨主張するが、コンクリート仮枠について、従来、前認定のとおり二種類があることを考えれば、ただちに、債権者の主張するような構造または作用効果を有するものとすることは速断であり、また右曲面の点も、鍔を外側に使用する場合において、とくに障害となるものとも考えられず、かえつて、仮枠に設けられた孔と仮枠保持杆の直径について、社会通念上容易に推認できる径の誤差を考えれば、外側からあててコンクリートの流出防止を効果的ならしめるための構造として右曲面が設けられているとも考えられないのではないのであるから、結局、債権者が右に主張するような点があつても、これをもつて、前記甲第一号証の記載の大部分を占める前掲記載部分の詳細な説明を誤記としてしりぞけ去ることはできない。

(債務者らの製品の特徴)

三 乙は、当事者間に争いのない別紙目録の図面および説明書からみて、

(一)  本体ボルトの内端部中心に雌ねじを設け、両端に雄ねじを形成したセパレーターを、前記雌ねじに係合するようにしたこと。

(二)  本体ボルトの内端部外端に短小の雄ねじを刻設して、これに堰板阻止用のリングゲージを着脱自在に螺嵌したこと。

(三)  本体ボルトの外端部に雄ねじを設けてこれにナツトを螺合したこと。

の特徴を有し((一)および(三)については、当事者間に争いがない。)それによつて、少くとも、

(四)  堰板および縦ばた横ばたの緊締

(五)  堰板間の間隔保持

(六)  コンクリートの流出防止

の作用効果を有するものと判断される。

なお、リングゲージを着脱自在にしたことによる作用効果として、債務者らの主張する堰板の間隔調整の可能、外側から挿入可能、リングゲージなしの使用可能、保管の容易および回収の便利の点も、その構造自体から一応認めうるところである。

(本件登録実用新案と債務者らの製品の対比)

四 甲と乙を対比するに、乙の本体ボルトは甲の仮枠保持杆に、乙のセパレーターは甲の緊締杆に、それぞれ一応該当するとみるべきことは、前説示の両者の要部、特徴からみて明らかであるところ、前掲記の各証拠によれば、乙は、次の点で甲の要部を構成する要件をそなえていると一応認められる。すなわち、

(一)  仮枠保持杆(本体ボルト)の先端中心に縦孔を設け、両端に雄ねじを形成した緊締杆(セパレーター)を、前記縦孔の口部に形成した雌ねじに螺合するようにしたこと。

乙においては、本体ボルトの先端中心に設けられた雌ねじは、甲におけるように縦孔の口部に限定されていないけれども、両者とも、その雌ねじは、緊締杆ないしセパレーターの両端に形成された雄ねじと螺合するという作用を有するにすぎないのであるから、この相違は、乙が甲の右要件を具備するものと認めることの妨げとなるほど重要なものではない。

(二)  仮枠保持杆(本体ボルト)の他端に雄ねじを形成して、これにナツトを螺合したこと。

次に、甲の要件である仮枠保持杆の先端に堰板の外側から圧接する鍔を設けたこと、の点についてみるに、乙においては、前説示のとおり、本体ボルトの内端部外端に短小の雄ねじを刻設し、これに堰板阻止用のリングゲージを着脱自在に螺嵌しているものであるが、前記甲第一号証によれば、甲において、鍔を設ける点については、これを仮枠保持杆と一体に作るとか、両者を別に作つて螺合その他の方法によつて結合するとかの限定はないものと認められるのであるから、乙におけるように、リングゲージを本体ボルトに螺合するものも、これを使用時の状態でみれば、甲において鍔を設けたものと同一とみるのが相当である。しかしながら、甲の鍔は、前説示のとおり、これを堰板の外側にあてるものであり、したがつて、これによつて、コンクリートの流出防止の効果はあげうるが、堰板間の間隔保持の作用効果はない点を考慮すれば、甲は、前認定の(イ)の形式に属すべき緊結金具とみるべきであり、一方、乙のリングゲージは、前説示のとおり、本体ボルトに螺合して堰板の内側にあてるものであり、それにより、前認定のように堰板および縦ばた横ばたの緊締、堰板間の間隔保持およびコンクリートの流出防止の作用効果をあげるものである点を考慮すれば、乙は、前認定の(ロ)の緊結金具とみるべきものである。したがつて、乙はこの点において、甲の要部を構成する要件を欠くものであり、さらに、これにより前記のような作用効果上の相違を有するものであるから、結局、乙は甲の技術的範囲に属しないものといわなければならない。前記甲第三号証、同第十三号証、同第十七号証および同第二十一号証中右と異る見解は、これを採用しがたく、他に右判断を動かすに足る疎明はない。

(差止請求について)

五 債務者らが乙を製造、販売または拡布していることは、当事者間に争いがないが、乙が甲の技術的範囲に属しない以上、これが属することを前提とする債権者の差止請求は、その余の点について判断するまでもなく、その理由がないものといわなければならない。

(むすび)

六 以上説示のとおり、別紙物件目録記載の物件に対する本件仮処分申請は、その被保全権利の存在に関する疎明が十分でなく、保証を立てしめて、これに代えることも、事案の性質上、適当とは認められないから、すでにこの点において理由がないものといわざるをえない。よつて、債権者の申請を容認してした主文第一項掲記の仮処分決定は、取り消し、右仮処分申請は却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 米 原 克 彦

裁判官 白 川 芳 澄

物件目録

一 コンクリート仮枠の締付用金具構造は、別紙図面に示すように、

コンクリート型枠を緊締する本体ボルト(1)の内端部、すなわち、コンクリート埋込部の外側に短少の雄ねじ(3)を刻設し、この雄ねじ(3)に、本体ボルト(1)と別個に作つた堰板阻止用のリングゲージ(4)を嵌脱自在に螺着し、本体ボルト(1)には、その内端部(2)の中心にセパレーター(5)の両端螺糸部(6)を螺合する雌ねじ(7)を設け、本体ボルト(1)の外端部には、ナツト(8)を螺合する雄ねじ(9)を設けたもの。

(イ)号図面

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